BOOKS ランキング&今週のおすすめの一冊 2026/3/31放送
BOOKS ランキング&今週のおすすめの一冊 2026/3/31放送
2026.03.31
毎週火曜日9時20分頃から、RKCラジオの「とさこちラジオ」で放送しているBOOKSランキング!

3月31日に放送した内容をご紹介します
『3月31日放送 BOOKSランキング!TOP10』
🔻ランキング🔻※3月25日付
 
1位  青天     
         若林正恭 著  <文藝春秋>





2位  科学的に証明されたすごい習慣大百科
      堀田秀吾 著  <SBクリエイティブ>





3位  大河の一滴 最終章  
         五木寛之 著  <幻冬舎>





4位  暁星
         湊かなえ 著  <双葉社>





5位  20代で得た知見
         F 著  <KADOKAWA>





6位  わざわざ書くほどのことだ
      長瀬ほのか 著  <双葉社>





7位  殺し屋の営業術  
         野宮有 著  <講談社>





8位  スピノザの診察室
         夏川草介 著  <水鈴社>             





9位  熟柿
         佐藤正午 著  <KADOKAWA>





10位 言語化するための小説思考  ※初登場!
           小川哲 著  <講談社>

      

 
『今週の初登場作品!』
「言語化するための小説思考」
小川哲 著  <講談社>

「伝える」ではない、「伝わる」言葉を、文章を生み出すために、小説家はいつも何を考えているのか?
直木賞作家・小川哲が、どうやって自分の脳内にあるものを言語化するかを言語化した、目からウロコの思考術。


 
『今週のおすすめの一冊』
『誰かがジョーカーをひく』
宇佐美まこと 著  <徳間書店>




今回紹介させていただくのは、2月に徳間文庫から刊行された小説「誰かがジョーカーをひく」です。著者はこれまで「黒鳥の湖」や「夢伝い」といったタイトルを紹介させていただいたことのある宇佐美まことさんです。宇佐美さんはこれまでホラーミステリーやアングラな題材の小説を数多く書かれていて、今作もアングラな犯罪集団や誘拐事件に端を発する物語となっています。

主人公は、冴えない主婦である沙代子という女性です。言葉を濁さずに言うなら、序盤の沙代子はさしたる長所もないドンくさい女性として描かれています。そんな沙代子が夫の暴言に耐えかねてスマホも持たずに家を飛び出し、キャバクラ嬢を車で轢いてしまうことで物語が始まります。キャバクラ嬢の紫苑という女性にケガはなかったものの、どういう事情かヤクザに追われている紫苑は沙代子の車に飛び乗り、冴えない主婦と自由奔放なキャバクラ嬢という凸凹コンビが誕生します

車で轢いてしまった負い目に付け込んだ紫苑は沙代子を都合よく扱い、気が弱い沙代子は何一つ状況が理解できないままにあれよあれよと誘拐事件の身代金3000万円を手にしてしまったり、世間を賑わしている「鬼炎(きえん)」という犯罪集団に目をつけられたりと怒涛の展開に巻き込まれていくのです。

さてタイトルの「誰かがジョーカーをひく」というタイトルから連想されるものはなんでしょう。ジョーカーをひくと言えばそう、トランプのババ抜きですね。作中で明言はされていませんが、確かにこの作品は誰かが最後にババをひくというイメージで書かれているような印象があります。ただしこのジョーカーにはどこにもジョーカーとは書かれていません。自分の手札のカードのうち、なにがジョーカーなのかを知らないまま登場人物たちは各々で思考し動いています。
さらに言うなら、自分自身にとってのジョーカーとは何者なのかということも分かりません。完全無欠と思っていた人物にも、意外な急所や天敵となる存在はあるものです。そういったことを思い出させてくれるような読後感でした。

何者がジョーカーなのかが分からないこのババ抜きには様々な人物が登場します。主婦の沙代子とキャバクラ嬢とその家族に加え、ヘタレなホスト、犯罪集団「鬼炎」という存在、「鬼炎」により誘拐された女子高生やその従妹など、沙代子が主人公ではありますが群像劇めいた要素があることも面白いところです。宇佐美先生お得意のアングラな空気感や犯罪集団の影がちらつくハラハラ感を味わいながら、緻密な描写で少しずつ登場人物たちの背景に隠されていたものが明かされている展開も面白いです

登場人物たちの過去やルーツが深く読んでいけることも今作の魅力の一つです。当然ながら人間とは過去の積み重ねにより性格や人格が形成され、その過程で得手不得手や好き嫌いといったことが定まっていくものです。はじめはドンくさくて冴えないただの主婦だと描写される沙代子にしても、実際には調理師としてしっかり働いていた過去があり、物語のなかで幾度も手の込んだ料理や自然素材のものを活用した料理を披露しています。そのスキルを学んだのは幼少期を過ごした四国の山間部での暮らしでした。幼いながら自分の足で歩いて見知った山菜や生薬といった知識は、やがて調理師となった沙代子に大きな影響を与えていたのです。

人には様々な過去があり、様々な経験や知識があります。それは一目見ただけでは分かりません。そういった見えにくい事柄が影響しあって、やがては誰かにとってのジョーカーになるほどの要素となっていくのが今作の最大の魅力でしょう。
犯罪集団が暗躍するアンダーグラウンドな事件に巻き込まれ、翻弄されながらも自分を取り戻していく沙代子や様々な背景を持つ人物たちの辿りつく結末を、宇佐美まことさんの緻密な文章と共に見届けてみてはいかがでしょう。


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